冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
扉を開けた時、すぐに異変を感じた。紫の霧が頭を包み、猛烈な眠気にレミュールは膝を落とす。足元には魔法陣が描かれ、音も立てずにすっと起動して消えたのは《睡霧》の魔法。
(どう、して……)
今鍵の使用権を預かっているのはレミュールだから、部屋にはひとりしかいないはず――あの優しいマーシャが、悪戯で人にこんなことをするわけがない。
だが、消え入りそうな意識を繋ぎ止める中で、彼女は倒れ込んだ自分を部屋に引きずり込むマーシャの顔を見てしまった。目深に外套のフードを被り、操り人形のようになったその顔は、目が合っても何の反応も示さなかったが……瞳の奥が普段とは違い、強く紅い光りを灯していた。
『――いるのよねマーシャ、ねえマーシャ、開けるわよ!』
(うるさい……なにを言ってるの……)
次に、意識が途切れた彼女を覚醒させたのは強く扉を開いた音だった。
(どう、して……)
今鍵の使用権を預かっているのはレミュールだから、部屋にはひとりしかいないはず――あの優しいマーシャが、悪戯で人にこんなことをするわけがない。
だが、消え入りそうな意識を繋ぎ止める中で、彼女は倒れ込んだ自分を部屋に引きずり込むマーシャの顔を見てしまった。目深に外套のフードを被り、操り人形のようになったその顔は、目が合っても何の反応も示さなかったが……瞳の奥が普段とは違い、強く紅い光りを灯していた。
『――いるのよねマーシャ、ねえマーシャ、開けるわよ!』
(うるさい……なにを言ってるの……)
次に、意識が途切れた彼女を覚醒させたのは強く扉を開いた音だった。