冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
 隣に立つジェラルドの顔をすぐに仰いだが、彼は若い聖女候補にマーシャを部屋へと案内させて休ませるように命じ、当時のことを知るもの全員を呼び寄せてこう言った。

「三年前あったあの事件の下手人がマーシャであったと、噂で聞いたものもいるだろう。しかし、あの事件で彼女に決して咎はなかった。事情があってここ数年ほどの記憶が失われてしまっているが、お前たちもどうか、これまでどうり接してやって欲しい……頼む」

 ジェラルドは真摯に頭を下げ、それを拒める者はいなかった。しかし……それでも納得がいかなかったレミュールは何度も彼に問い詰め、事実を特別に明かしてもらった。

 それによると、事件の後拘束されたマーシャには、怖ろしい強度の精神操作魔法を掛けられていた痕跡が見つかったという。

 数日間抵抗できていたのは、彼女が受け継いだ聖女の血と、一重に友人を守りたいと願う強い意志の賜物で……しかし最後にはそれすらも飲み込まれ、心の中にあったラナへの嫉妬心を強く刺激し増幅させられたマーシャは、ついにはあのような凶行に及ぶに至ったのだと、ジェラルドは未だ苦渋の滲む表情で語った。
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