冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
 この様子からすれば、平手打ちの件は大っぴらにはなっていまいとセシリーは少しだけ安心する。彼はリルルを連れて急ぎ足になったが、途中でセシリーが遅れ始めたことに気づくと歩幅を合わせ、困ったように頬を掻いた。

「すみません、気遣いが足りなくて。もしかして娘さんは、お貴族様の御令嬢だったりするんでしょうか? だったら僕、気が利かないから失礼なこと言ってたら注意してくださいね」
「いえそんな。一応末席には名は連ねてますけど、運よく爵位を譲ってもらっただけの名ばかりの家柄ですから、どうか気兼ねしないで。セシリー・クライスベルと申します、どうぞよろしく」
「こちらこそ! 僕はラケル・ルース。魔法騎士団に務め始めたばかりの新米騎士です。呼び捨てにしてくれて構いませんから、改めてよろしくお願いしますね。こいつは白狼のリルル。ほら、ご挨拶!」
「ウォン!」

 ふわふわした丸っこいリルルが狼だと言われてもぴんと来ないが、それよりもラケルとリルルの互いの心を理解したようなやりとりに、セシリーは口元をほころばせた。
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