冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
「……それは」
「ごめんなさい。けしかけるつもりはないのよ。ただ……マーシャとも話をしてね。もしもこの後封印もなにもかもうまく行って、国内が安定したら……彼女と一緒にホールディの家に戻ろうかって。行き遅れた女ふたり、一緒に肩を寄せ合って暮らすのも悪くはないと思うから」
「……で、でも! ジェラルド様はおふたりのことを……」
「わたくしたちがいる限り、ずっとジェラルド様は負い目を感じて生き続けなければならないわ。だから決めたの……。彼もきっと、本気で訴えかければ嫌とは言わないでしょう」

 レミュールは信念を宿した瞳でセシリーを見据えた。それはジェラルドが幸せになるために、自分たちの存在は欠片も必要ないと断定している目だった。

 誰よりも彼を想うがゆえの……十年越しの決断。そこにセシリーが差し挟める口などあるはずがない。ここで自分の本心をわめくことが無粋にしか思えないほどの、高潔で美しい心持ちだった。

「だから、あなたのできる範囲でいいから、あの人を助けてあげて。そしてできれば幸せを与えてあげて欲しい……それがわたくしたちふたりの、心からのお願いよ。セシリー・クライスベル……」
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