冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
「いいのだよ。オレは生まれた時に、あいつらも聖女候補としてこの場所に来た時に……国のために命を捧げると覚悟したのだから。お前が現われてくれたことで、やっとあいつらは役目から解放される。王都を遠く離れればいずれ月日と共に記憶は薄らぎ、平和を取り戻した世界で己の為の生を送れるようになるはずだ……」

 彼が、王太子という替えの聞かない身分でなかったなら……卑怯な何者かのせいでマーシャがラナの命を奪うことにならなければ、もっと違う形の未来があったはずなのに。時を遡ることができない今、当事者でないセシリーがいくら口を挟んだ所で彼らの決断に影響を与えることはできない。

 自分ならばどうするか、どうなって欲しいのか……そんな時ゆっくりと頭に浮かびそうになったのは、数日前の不思議な夢の断片で――。

「ご報告いたします! ファーリスデル王国からの使者をお連れいたしました!」
「ああ、ご苦労。入ってもらってくれ」

 外から響いた声に、室内に控えていた従者が両開きの重そうな扉を開けた。
 立ち上がったジェラルドとセシリーの元に、使者の一団がゆっくりと歩み寄る。
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