冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
「ありがとう。それじゃ互いに遠慮なく名前で呼び合いましょう。よろしくね、ラケル、リルル」

 さほど大きくはないが鍛錬の跡が窺えるしっかりとしたラケルの手と、狼らしく中々骨太なリルルの前足を順番に握って振り、セシリーは隣を歩く。

「あなたたちだけ、制服が黒いのね?」
「正騎士さんたちと区別するための処置ですね。うちは実は、向こうみたいに歴史が古くないから。規模も十分の一にも満たないくらいで、敷地内に辛うじて間借りさせてもらってるような感じなんです。ほら、見えてきた。建物も同じ色でわかりやすいでしょ?」

 ラケルは姿を現した目的地を差し示す。そこには、真新しさは感じられるものの、他よりは大分こじんまりとした黒い箱型の建物が置かれていた。

「団員も三百にも満たないから、結構忙しいんですよね。やりがいのある仕事だから、僕は好きですけど」
「そうなんだ。魔法を使える人の数自体少ないものね」
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