冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
「ラケル駄目! こんなところでそんな魔法使ったら……」
「加減はするよ。こんな奴らにはしっかりと身の程を分からせないと」

 だがその制止も聞かず彼が魔法を解き放つと、火の玉が弩の如く放たれる。
 大半は足元を目掛けて飛び命中はしなかったが、土砂が爆ぜ散って、瞬く間に悲鳴が上がる。

「……ひ、うぁぁぁぁっ!」「助けてくれ!」
「な、なんだこいつやべえ! フォルアンサムの旦那、逃げますぜ!」
「ま、待つのである……置いていくなっ!」
「逃がさないよ」

 逃げ惑う暴徒たち。それに紛れ先に逃げ出そうとした首謀者の男の片方を、ラケルが鞘ごと抜いた剣で容赦なく気絶させた。残った貴族の男が震えあがって情けなく尻餅をつく。

「わ、わた、私は貴族であるぞ! きさ、貴様……手を出せば、裁判にして――」
「関係ない。セシリーの周りに危害を及ぼす奴らは……僕が全部、潰す」
 
 ラケルは感情を殺した目で男を見下ろすと剣を振り上げた。
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