冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
 セシリーの胸に顔を埋めまた泣き出すティシエルが持ち込んだ手紙を、キースは一瞥する。

 そこには『クライスベル商会支配人ルバート氏の身柄は預かった。返して欲しくば、商会の全取引を停止し、解散することを確約せよ。なお、一月の間にそれが認められぬ場合は、氏の命は無きものと思っていただく――』などと書かれ、付けたされるように細かい条件が書かれている。

「これは穏やかではありませんね……先日言葉を交わした時にはお元気そうだったのですが」
「私たちが向こうに行ってた時ですか? もしかして、父さんがいなかったから……ルバートさんが代わりに……?」
「……分かりませんが、とにかく何か手を打つ必要があります」

 セシリーも一緒に考えてみた。今はラナの知識と魔法を授かっているから、何かできることがあるかもしれない。

 だが、特定の人間の居場所を判別するのは魔法を使っても困難なのだ。……相手がもし魔法使いであれば、魔力を使用した痕跡から見つけることもそう難しくはないが、ルバートは魔法使いではないから、正確な位置を特定しづらい。そうなると手掛かりは、ティシエルが持って来たこの一枚の手紙だけ。
< 579 / 799 >

この作品をシェア

pagetop