冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
(見世物じゃ無いんだがな。そんなにこの紫の瞳は珍しいか? それとも、顔に張ったこの湿布がそんなにおかしいか?)

 いつもなら我慢できる無遠慮な視線がことさらうっとうしく感じるのは、今もひりひりと感じる頬の痛みのせいだろう。かといって、見るなと注意もできず……リュアンはせめて気分を落ち着けようと息を吐き、出された茶に手を付ける。

 そこでオーギュストから、会話の矛先がこちらへと向けられた。

「時にリュアン殿、ご婚約はされておりますかな?」

 ずいぶんと突っ込んだ質問にわずかに手が震え、カチリとカップに敷いた皿が鳴る。

(もしかして、セシリー嬢と俺を近づけようという意図でもある……のか?)

 貼り付いた笑みからは思惑を読み取れずリュアンは苦々しく思うが、こうした質問自体は別段おかしいことではない。高い身分や、国の中枢に近づく役割の者ほどこの手の話を振られる機会は必然と多くなる。
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