冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
 過去に何度も問われてきたため、リュアンはこうした時の返答を予め決めてあった。

「いえ……私は今は、若輩たる我が身を磨くことで精一杯でして。この剣を捧げた国の民たちを守るためにも寸暇を惜しんで剣を振るい、後進の模範となるべく職務に邁進(まいしん)する所存です」
(……くくっ)

 建前全開の台詞に小さく吹きだしたキースの足を踏みつけると、リュアンは言外に女性にかまけている暇は無いのだという意思を滲ませ、対面で微笑む世渡り上手の商売人を見返す。

 それに彼も茶色の瞳を細めたまま、諭すような穏やかさで同意する。

「そうですか……。いや、わかりますよその気持ちは。私も若かりし頃は自らのみを頼りに孤高を貫こうとしたものだ。だが、存外誰かに心を預けるというのも、悪くはないものです。私がこうして娘や数多くの使用人の生活を支えられているのも、今は亡き妻の献身が無ければ不可能だったことだ」
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