冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
 一方向こうは真っ赤で艶めく美しい巻き髪に、白い肌、ぷくぷくのほっぺや唇。男のツボを心得たような妖艶な仕草。どちらの容姿が勝っているかは一目瞭然。

 書類に目を通しながら後の祭りだと感じたが、せめてセシリーは反論すべく口を開いた。

「これは私たち当人同士だけの問題ではないでしょ?」
「悪いが、君の父上にももう了解は取ってあるんだ。慰謝料も追って支払う。知らぬのは君だけというわけさ」
「はあ?」

 呆れつつ彼女は書類下段の父直筆の署名を睨む。まったく知らない話に間抜け顔をさらすセシリーを指さし、イルマとかいう女はケラケラと笑う。

「ぷぷっ。『はあ?』だって~! この人変な顔~、面白ーい! きっと役者さんの才能あるわよ、目指してみたらぁ? 応援しちゃう、きゃはははは!」

 それがまた(かん)にさわるったらなく……心の中で「苺ジャムみたいな真っ赤な髪しやがって。このベタベタジャム女が」と愚痴っていなければ、セシリーは今ごろそのもちもちほっぺに真っ赤な手形をプレゼントしていただろう。
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