冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
 いらぬお節介もいいところだが、見過ごせないものもある。ただ話を合わせているだけではなく、彼の瞳の奥底にはリュアンもよく知る感情が染みついている。

 大切な人を失う深い悲しみ……。リュアンは、騎士として任務をこなす内に人々のそれを何度も目にし、なにより以前に我が身でも味わっていた。今も彼ら苛むやり場のない苦しみを受け止めることも騎士として大切な仕事のひとつだと、きちんと向かい合うべく姿勢を正す。

「奥方様はどうしてこの世を去られたのか、お聞きしても構わないでしょうか?」
「ああ、もちろんです。あれは我々がまだ隣国にいた頃の話です。旅先で魔物からの襲撃を受け、妻だけがその命を奪われてしまった。まだ娘が物心つく前だったことは不幸中の幸いでしたが……そのため、セシリーはほとんど母の愛を知らずに育ったのです」

 オーギュストによれば、彼ら一家は元はガレイタム王国の出で、こちらに移り住んできたのは十数年程前なのだという。向こうでも行商のため仲間たちとあちこちを旅していたが、運悪く活性化し始めた大量の魔物たちと遭遇し……戦いの最中で雇っていた護衛や仕事仲間たちとも引き離されてしまう。
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