冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
 旅先で何かあったのかわからない。しかし、彼がこんな風によっぽど思い詰めた顔をすることは珍しい。オーギュストはこう見えて重要なことはあまり他人に話さないから、胸につかえていることがあるのならば、家族の自分にくらい打ち明けて欲しいとは思うのだが……。おそらく娘に無用の心配を掛けまいと黙っているのだろうし、あまり強いことは言えない。

 現在、出席者はそれぞれの指定された座席の隣に立っている。楕円形の円卓のこちら側にはリュアンを筆頭に、キース、オーギュスト、セシリー、そしてこの日のために証言を頼んだ一人の人物が順番に並ぶ。

 すでに対面側にも、記憶にあるのと同一人物とは思えないくらい禍々しい目つきに変わってしまったイーデル公爵とマイルズがついている。更に続いておそらく法務相の役人である男と、たしかクライスベル商会の前で一度見かけたフォルアンサム男爵や数人の男が列席し、後は会議の裁定役となる高貴な方々の入場を待つだけだ。

 やがて扉が開き、煌びやかな衣装を纏った男性が入室してくると共に、面々は揃って礼をする。

 彼は左右ににっこりと威厳たっぷりの笑顔を向けた後、奥に進むと楕円の先端部分……上座に着座し、全員にも同じようにするよう促す。
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