冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
 一緒に練習したのはごくわずかな期間だけれど、きっとそれ以外の時間でも彼はどこかで練習を積んでいたのだろう。軽やかにステップを踏む姿は、見違えるように様になっていた。

 なによりも、見たことの無いような嬉しそうな顔でこちらを見ていて……セシリーは温かい気持ちが胸に広がるのを感じた。それが胸に抱えていたもやもやをどんどん溶かしていって……体が軽い、熱い。

 繋がる手をぎゅっと握ると、彼もそれに応じるように柔らかく握り返してくれる。それが、信じられないくらい、心地よくて……。

 ずっと、こんな素敵な人に自分なんて似合うはずがない……。いつか絶対彼の隣に、ふさわしい誰かが現われて離れなければいけない時が来る。心のどこかでそう諦めていた。

 だから、誰かに妬まれたって平気で彼の傍に居られた……こんなちっぽけで、卑屈な自分であっても。でも……そんなセシリーを彼は選んでくれた。

 今なら、ラケルの気持ちがわかる気がする……。どうしてもこの人じゃないと駄目なのだ。容姿とか、肩書とか性格とか、そういうのももちろんあるけれど……でもそれ以上に、セシリーはリュアンという存在がどうしようもなく好きなのだ。
< 679 / 799 >

この作品をシェア

pagetop