冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
「うむ、キース殿の言う通り。私も昔、妻を怒らせたことは何度もあったが、それを乗り越えてこそふたりの仲は深まりました。見たところ、相性は悪くなさそうだ」
「あれでなんですか……!?」

 そんな会話の間にも顔を真っ赤に染めたセシリーが、もう強引にリュアンの頬に塗りたくってやろうかと飛びつく準備を始めた時……キースと父の聞き捨てならない会話が、彼女の耳を自然と吸い寄せた。

「実はあの通り、ウチの団長はとんだ朴念仁でして、いい年をして恋人のひとりも作ろうとしないのですよ。人間的成長には恋愛は欠かせないと日々説いているのですがね……。今回の節刻みの舞踏会もひとりで出席するわけにもいかず、困っている次第でして……」
「なんと! ではぜひセシリーをお連れくださいませ。あのような娘ですが、着飾って化粧をすれば、なんとか誤魔化せんこともないはず。先日婚約を破棄されたばかりで、それを忘れるには新しい殿方と接するのが一番効果的でしょうし」
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