冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
 冷静そうに見えて後先考えず無茶するところも……なんにでも一生懸命取り組む几帳面なところも……仲良くなって見せてくれたどきっとするくらい格好いい横顔も……全部。

 ずっと彼を目で追いたい。これからも新たな経験をして、色々な表情を見せてくれるはずの彼のことを、ずっと隣で見ていたい。

 セシリーは、自分にとってきっとこれが……恋で、愛なんだと思った。夢のように愛しくて、切ない時間。終わらないでと心底願うくらい、大切な一時。

 こんなに楽しいのに、嬉しいのに……。ずっと遠ざけてきたのはきっと、一度始まってしまえば必ず最後が訪れる……そのことを怖れていたからではないだろうか。

 初めの円舞曲が終盤にさしかかり、ゆっくりと一音一音がペースを落としていく中、セシリーはずっとそれを願っていた……終わらないでと、それだけを。

 けれど、緩やかに曲は締めくくられ……少し表情に違和感の滲んだリュアンがこちらを気にする中、セシリーは共に中央で優雅に膝を折る。
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