冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
 あの時セシリーは離れていたため、その被害には掛からなかったが……公爵を装いセシリーたちを陥れた人物は、自身の魔力を込めた血液を霧に変えて吸わせることで、体内から人々の行動を束縛したという。それはおそらく……十年ほど前、ラナが命を落とした時の手口と同じだ。

 しかし、それを聞いてはいてもなお強くよぎるのは……涙で滲む視界に映った通路の奥に消えた影。あの人物のことをセシリーはどこかで、いや……ずっと昔から知っている。

 けれど必死にそれを頭の中で否定した。絶対にない……。あんなに長い間ずっと、自分を守り育ててくれたあの人が、まさか……。

 飛び込んだ室内は、それ自体が魔道具の一部であることを象徴するような造りだ。壁も地面も天井でも、幾つもの光の魔法陣が歯車のように組み合わさって起動し、それぞれの中心には魔石が輝いている。それらの魔力を受け取るかのように、部屋の中心にある台座へ乗った橙色の宝玉は煌々と輝いていた。

 しかしそれは今にも砕かれそうに、大きな亀裂が入りかけ……ひとりの女性がそれに手を翳している。
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