冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
「離れなさい!」
「――待って!」

 大きく叫んだフレアが素早く指を付きつけ魔法を放とうとするのを、セシリーは思わず止めようとした。だが彼女の意思は揺るがず、宙に書いた魔法陣から光の矢が飛ぶ。

 しかし宝玉の前にいた人物はそれを見もせず、魔法の障壁を生み出して防ぐと、ゆっくりとこちらに顔を向けた。彼女に向けて、リュアンが鋭い声を放つ。

「……どうして。あんたがなんでここで、こんなことをしているんだ! セシリーの身をあんなに案じていた、あんたが!」

 振り向いたその人の瞳は今や赤に変わり、そして彼女はふんわりとした桃色の髪をかき上げると、上品そうに首を傾げて微笑んだ。

「残念です御嬢様。あのまま愛しい人と束の間の幸せに浸っていて下さればよかったのですが……どうしてここへいらっしゃったのです~?」

 間延びした声も変わらずそのままに……彼女は――クライスベル家の侍女であったはずのエイラ・バーキンスは、セシリーにつまらなそうに問いかけた。 
 
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