冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
 加えて許しがたいのは、話を認めた父もだ。

 もともと実家の事業を助けるためにと婚約を押しつけたのは彼だったのに。もしかすると事情が変わったというのも有り得たけれど、それにしたって、せめて当事者の自分くらいには一報くらいよこすべきだろう。こめかみが怒りでズキズキ痛んできた。

「わかったろ? これはもう決まってしまったことなんだ。さあ、一筆ささっと書いて清算しようよ、僕と君との関係をさ」

 そしてこのいっそ清々(すがすが)しいほど悪気の無い、マイルズの言葉……。

 セシリーの胸が「こいつ、背中をナイフでサクッといってもって許されるよね……」という軽い殺意で燃えあがるが、しかし仮にも彼は公爵令息。やってしまえば果ては処刑か没落か。馬鹿男への嫉妬で人生をふいにするのは、さすがに御免被りたい。

「……わかったわよ! はい、これでいいんでしょ!」

 ペンを折りたい衝動に耐え、震える手でいびつなサインをしたため書類を突っ返すと、セシリーはふたりをきつく睨みつける。
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