冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
 ……そしてわいわいと騒ぐそんな彼らを、壁際でたたずむ侍女たちのひとり――エイラは呆れ顔で見つめていた。

(はぁ、お館様も御嬢様もお客様の前で、後始末をするこちらの身にもなって欲しいものです。……痛たた)
「エイラさん、大丈夫ですか?」
「……ええ」

 持病の、原因不明の胸の痛みが出て隣の同僚に心配されたエイラは、激しく罵り合いを続ける黒髪の騎士に奇妙な懐かしさを覚えた。だが彼と面識は無く、気のせいと思い直すと周りに声を掛ける。

「なんでもないわ。とりあえず、片付けてしましょう~。皆さんお願いしますね~」

 細かい気配りも古株である彼女の仕事だ。騒ぎ立てる客たちを前に、同僚たちとぶつかりそうなテーブルを避けると、エイラはまとめ役として手際よく片づけを指示しながら、頬に手を添え困ったように微笑む。
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