冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~

守りたいから

「――全体戦闘準備! 錘型の隊列を組み突破する! くれぐれも足を止めるな!」

 レオリンの鋭い号令が響き、跳ね起きたセシリーはリュアンと共に御者席に移動する。これまでは出来る限り交戦を避けていたが、おそらく戦いが避け切れない程魔物の密度が増えてきたのだろう。

「始まったか……お前は中に居るんだ!」
「いいえ! 私も外に出て、皆を守ります!」

 そんな会話を交わし、ふたりは御者の兵士の両脇に陣取った。
 もう白砂の砂嵐で遮られていた視界の奥には、淡い光の膜で覆われた黒い靄が巨大な山のように見えている。

 王太子の連れてきた精兵たちが、矢印のような隊列を組んで砂地にはびこる魔物たちを排除してゆく。それらは、ティシエルの言っていた瘴気が寄り集まってできたもので、実体のない黒い影のような姿だ。羽根を持った牛や、双頭の獅子といったような、いくつかの動物が組み合わさったような奇妙な形状のものが多い。

「怯むなーっ! くっ、物理攻撃は効果が薄いようだ! 魔法を使えるものは頭部を狙え!」
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