冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
 思い出すのは昨日の騎士団長リュアンの青筋の浮いた笑顔。
 彼はあの後薬も受け取らず……セシリーと一言も口を聞かずに苛立ちのままクライスベル家を後にした。こちらも礼を欠いたとはいえ、長たるものが取るにはあまりに心の狭い態度ではないか。

(あんな風に怒らなくたっていいじゃない? 恋人もいないって話だし……きっと性格が物凄くひねくれてて、女の子が寄りつかないのよ)

 頭の中でリュアンがワハハと悪魔のような笑みを浮かべてこちらをあざ笑い、セシリーは(まなじり)をきっと吊り上げる。

(そりゃさ、とんでもなく美形だったのは認める。けど思いやりのない人はダメ! いくら能力があったって周りの人に辛い思いをさせるんだから……でも)

 そのわりには、キースとかいう副団長やラケルはずいぶんと彼に胸襟(きょうきん)を開いているように見えた。長く付き合えば、また評価も変わるのだろうか。
< 76 / 799 >

この作品をシェア

pagetop