冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
 ふたりはどちらともなく、顔を近づけ、唇を触れ合わせる。そこにはもう存在を知らせるものなどなにも無い。だけど、ふたりは確かに互いの温もりを感じ、想いを分かち合っていた。
 
 そして……唇を離すと、セシリーは幸せそうに笑った。

「行ってきます、リュアン」
「またな、セシリー」

 柱の場所に最後に残っていた紫色の水晶が、かしゃんと砕けてきらめく細い光の筋となり、リボンのようにたなびいてどこかへ消えた。月の石ももう跡形もなく……そして、明るい太陽がリュアンを真上から照らした――。
< 772 / 799 >

この作品をシェア

pagetop