冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
 ――そうして現在に至る。

 喫茶店を出て意気消沈したセシリーは、目をドレスの袖でこすり、誰にも顔を見られないよう道端をひっそり歩く。

 あんなパレード、今の彼女の目には劇薬で……極力目を背け早くその場を去るべしと両足をせかせか動かし始めたが、本日はとことん運が悪い。足元で鳴ったのは、ボキッという破滅の音。

「うわぁっ! ……いったぁ」

 石だたみに引っかかったヒールが完全に折れ、盛大に地面に倒れ込んだセシリーを人混みの誰かがあざ笑い、そして。

 ――ゴーン、ゴーン、ゴーン……と同時にこの王都一高くそびえる時計塔が午後三時の知らせを発した。見慣れたそれも今はこちらを見下しているように思えて、なんと憎たらしいことか。

(なんなのよ。こんなんばっか……あぁ、もう)
「お嬢さん、どうかしたかな? 手を貸そうか?」

 あまりの痛みと恥ずかしさに、えぐえぐ嗚咽を噛み殺すセシリー。そこで頭上から降ってきたのは、思ってもみない優しい声だった。
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