6月、高嶺の花を摘みに
「……っ! ゆい、と、だ……」

漢字はどうだったっけ。

五、六年くらい前に交通事故で亡くなったってわけだけど。

存在が消えると記憶から薄れていくものなのだ。

「それ、俺なんだけど」

「え?」

いや、は?

どうしてそうなるの。

どうしてそういう思考ができるの。

ゆいとは死んだんだよ。

なのに結人が生きてて。

死んだはずなのに生きてるって、そんなバカげたことがあるとでも。

私はそれを簡単に信じて飲み込めるほどお茶目でもピュアでもない。

「ゆいとは、ゆいとは死んだんだよ⁉︎」

「そうだよ」

「死んだのに、どうして生きてるって言うの⁉︎」

馬鹿だ。馬鹿だ。馬鹿だ。
< 10 / 12 >

この作品をシェア

pagetop