あやかし通りの恋結び食堂
そもそもこの商店街のアーケードをくぐり始めてから、誰ともすれ違わなければ後ろから誰かが来る気配もなかった。聞こえていたのは自身の足音と溜息くらいだ。
「すみません。驚かせてしまったでしょうか?」
再度聞こえてた声はやはり自分の耳元からだったが、背後に気配を感じた私はおそるおそる振り返った。
そこには真っ白のシャツに黒いズボンを履いた長身の男性が立っていて、私見るとふわりと微笑んだ。
「如月琴さんですよね?」
「えっ!?……なんで私の名前……」
男はそのまま私の目の前に立つと右手をさしだした。
「え……」
指の長い大きな掌には私のネームプレートが収められている。
「これ、落とされたので……」
「あ、ありがとうございます」
(あれ、ちゃんと鞄のポケットに入れたはずなのに……)
私は首を傾げながらネームプレートを受け取るとふと男を見上げた。
(え……)
男はお月様のようなオレンジ色の長い髪を麻ひもで一つくくりをしていて、少し吊り上がった涼し気なアーモンド形の瞳に高い鼻、そして薄めの唇をにこりと引き上げながら私にネームプレートをそっと手渡した。その一連の動作はスマートで勝手に胸がどきんと跳ね上がった。
「あの先程の話に戻りますが、琴さんはお腹がすいてらっしゃるんでしょう?」
「えっと……あの」
「すみません……先程これを渡そうと近づいた際に、琴さんの独り言が聞こえてしまいまして」
「あ……お恥ずかしい限りです……でもあのもうすぐ家ですし名前も知らない人と、その……大丈夫です」
落とし物を届けたあと、こうやって男が私のお腹の空腹度合いを訪ねてくるなんて新手のナンパだろうか。私は男から一歩後ろに下がって距離を取った。
「あ、失礼いたしました。急に知らない人から話しかけられて警戒されるのも無理ないですよね。僕の名前は妖野紺と申します、紺と呼んでください」
「え?コン?あのえっと……」
「はい、紺色の紺、一文字で紺と申します」
(コン……紺……)
私はその名前に興味が湧くと同時に狐につままれたようななんとも言えない気持ちになる。
(まさか……ね)
そう思いながらも私は無意識に一歩後ろに下がった。
「すみません。驚かせてしまったでしょうか?」
再度聞こえてた声はやはり自分の耳元からだったが、背後に気配を感じた私はおそるおそる振り返った。
そこには真っ白のシャツに黒いズボンを履いた長身の男性が立っていて、私見るとふわりと微笑んだ。
「如月琴さんですよね?」
「えっ!?……なんで私の名前……」
男はそのまま私の目の前に立つと右手をさしだした。
「え……」
指の長い大きな掌には私のネームプレートが収められている。
「これ、落とされたので……」
「あ、ありがとうございます」
(あれ、ちゃんと鞄のポケットに入れたはずなのに……)
私は首を傾げながらネームプレートを受け取るとふと男を見上げた。
(え……)
男はお月様のようなオレンジ色の長い髪を麻ひもで一つくくりをしていて、少し吊り上がった涼し気なアーモンド形の瞳に高い鼻、そして薄めの唇をにこりと引き上げながら私にネームプレートをそっと手渡した。その一連の動作はスマートで勝手に胸がどきんと跳ね上がった。
「あの先程の話に戻りますが、琴さんはお腹がすいてらっしゃるんでしょう?」
「えっと……あの」
「すみません……先程これを渡そうと近づいた際に、琴さんの独り言が聞こえてしまいまして」
「あ……お恥ずかしい限りです……でもあのもうすぐ家ですし名前も知らない人と、その……大丈夫です」
落とし物を届けたあと、こうやって男が私のお腹の空腹度合いを訪ねてくるなんて新手のナンパだろうか。私は男から一歩後ろに下がって距離を取った。
「あ、失礼いたしました。急に知らない人から話しかけられて警戒されるのも無理ないですよね。僕の名前は妖野紺と申します、紺と呼んでください」
「え?コン?あのえっと……」
「はい、紺色の紺、一文字で紺と申します」
(コン……紺……)
私はその名前に興味が湧くと同時に狐につままれたようななんとも言えない気持ちになる。
(まさか……ね)
そう思いながらも私は無意識に一歩後ろに下がった。