あやかし通りの恋結び食堂
「え……でも紺さんのお料理とても美味しいからきっと直ぐに繁盛しますよ」

「いえ、しばらくはお客さんは琴さんだけですよ」

「え？」

「あ、しばらくは誰も来ない気がして仕方ないんです。僕の勘はよく当たるので……で、僕は僕の料理で誰かを笑顔にしたいんです。僕の作った料理で笑顔になってくれたら幸せな気持ちになるんです。その僕の願いを琴さんが叶えて頂けませんか？」

「えっと……」

「そんな難しく考えないでください。また気が向いたらここにきて僕の料理を食べて感想を教えてくれるだけで助かります。感想も、おいしいとかイマイチとかそういう簡単なので結構ですし」

「わ、かりました……」

「良かった」

私の返事を聞いて直ぐに紺が嬉しそうに笑う。その無邪気な笑顔を見つめればどこかで見たことがあるような気がした。

（でも学校の同級生でもないし……会社関係でも得意先関係でも……ないよね）

紺が大きな掌を差し出した。無意識に手を伸ばすと紺が私の掌をそっと包み込んだ。

「掌と掌を合わせると互いのご縁が引き寄せられて強いご縁で結ばれたりするらしいです」

紺の笑顔を直視できない私は俯くと、照れ臭ささを隠すように濃いめの緑茶を一気に飲み干した。

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