元彼専務の十年愛
真っ白な天井。視界の端に映る黄色いカーテン。固いベッド。清潔感があっても拭いきれない独特の匂い。
病院、か。
カーテンの向こうは明るんでいて、とっくに日付が変わっているのがわかる。
ぼんやりした頭の中で、記憶を遡っていく。
午前中からなんとなく身体が重く、昼は食欲もわかなくて、夕方のミーティングでは頭が回らず、隆司に『熱あるだろ』なんて言われて。
朦朧とした意識の中で、隆司が『有沢の言う通りだったな』って…
ああそうか、と思いつく。

『大丈夫?』

朝の時点で、俺の不調は紗知に見透かされていたのだ。
情けないな。彼女にとって、俺は今でもそんなにわかりやすいんだろうか。
ふと横を見ると、紗知がベッドの端に片腕で枕を作り、うつ伏せて眠っていた。
見間違いかと思った。
さっき見ていた夢と同じ…あの日と全く同じだ。
いや、ひとつだけ違う。
枕にしていない片方の手は、しっかりと俺の手を握っている。
思わず笑みが溢れた。
健気に手を握っていてくれなくてもいいのに。
俺のことなんか放っておいてくれてもいいのに。

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