元彼専務の十年愛
パーティーのあと、ずっと紗知を避けていた。
これ以上近づいてはいけないと、心が警鐘を鳴らしていた。
そうでないともう自分を誤魔化していられなくなる。
自分にも紗知にも、この想いを隠しきることができなくなる。
けれど、冷たい態度を取っていても紗知はずっとやさしいままなのだ。
毎日玄関まで見送って『行ってらっしゃい』と声をかけてくれる。
そのたび胸が痛み、仕事に頭を切り替えてやり過ごすしかなかった。
どうすればいいのかわからず、逃げてばかりいた。

ゆっくり上体を起こすと、彼女が薄く目を開き、ハッとして起き上がった。

「颯太!大丈夫?熱は?」
「…もう平気だよ」

安堵のため息を吐き、涙を浮かべて笑顔を咲かせるその姿は、やっぱりあの日と同じだ。
思わず紗知の肩に頭を預けた。

「颯太?」

振動で戸惑う声が伝わってくる。

「ごめん」

声になっているかもわからない俺の言葉は、彼女には聞こえない。

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