元彼専務の十年愛
「私が彼をどう思ってるかは関係ないよ。取引をしてるだけなんだから、余計なことを考えないであと3ヶ月同居してればいいの」

こんなの自分に言い聞かせているようなものだとわかっている。
けれど、この想いを吐露しても苦しくなるだけなのだから、口にできるのはこれで精一杯だ。
しばし黙っていた愛花が視線を落とす。

「ごめんね、紗知。私が先輩に言ったの」
「え?」
「前に偶然隆司先輩に会って、高瀬先輩がALPHAで重役をしてることを知ったの。紗知の借金をなんとかしたくて、隆司先輩を通じて、高瀬先輩に紗知を助けてほしいって頼んだ」

愛花がぎゅっと目を閉じ、声を震わせる。

「ごめん。先輩が婚約なんて提案をすると思わなかったの。紗知を苦しめるつもりなんてなかった」

思わぬ告白に茫然とした。
颯太は偶然私の名前を見つけたと言っていたけれど、違ったのだ。
彼は、私がALPHAにいることを愛花と隆司先輩を通して知っていて、それで…
鼻を啜り始めた愛花にハッと我にかえり、身を乗り出して彼女の肩を撫でた。

「愛花、謝らないで。借金がなくなって助かったのは事実なの。愛花のおかげだよ。ありがとう」

目を赤くして顔をあげた愛花が、声を潤ませる。

「でもね、私は隆司先輩に少し聞いただけだけど、高瀬先輩にも色々な事情があったみたいなの。取引だって、高瀬先輩なりの考えがあってのことだったと思う」
「…うん…」

返事をしながらも、愛花の言葉はもう上の空だった。
愛花が颯太を頼ったとしても、本来彼に私を助ける義理はない。
婚約者のふりだって、私より適任なひとはたくさんいたはずだ。
それなら、きっと責任感が強い颯太は…
いずれ会社に入るためとは言え、わざわざあの日を選んで突然振った罪悪感から、取引という名目を付けてお金の援助をしてくれたのだ。
最近冷たく感じるのは、取引をした以上仕方なく私と一緒にいるからなのだ。

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