元彼専務の十年愛
だいぶよくなったと母は言ったけれど、全く本調子ではないようだった。
母に代わって夕食を作り、泊まった翌日の日曜もなるべく消化がよく食べやすいものをと心がけて作ったけれど、母は半分も食べられなかった。
心配だからもう何日か泊まっていきたいけれど、明日は月曜日だ。
週初めの大事なミーティングがあり仕事を休めないため、最終の新幹線に間に合うように夜実家を出た。

帰宅すると、リビングのドアから明かりが漏れていた。
部屋に入ると同時に、ソファから立ち上がった颯太が足早にやって来る。

「紗知、こんな時間まで何してたんだ?何かあったのか?」
「あ…ごめんなさい。母が体調を崩してて、実家に行ってて」

よく考えたらもう0時をすぎている。
連絡しておいたほうがよかっただろうか。
帰りはぼんやりしていてスマホを見ていなかったから、颯太から連絡がきていたかも確認していなかった。

「お母さん、大丈夫なのか?」
「うん、とりあえずは…大きな病気が見つかったわけじゃないみたいだし」

ぎこちない笑みになっている自覚はあるし、「そうか」と答える颯太の顔も曇っている。
颯太が本当に心配してくれているのが伝わってくるからつらくなる。 
自分だって昨夜は病み上がりで仕事をして大変だっただろうに。
やっぱりこの人は、ずっとあの別れを気にして罪悪感を抱いていたんだろう。

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