元彼専務の十年愛
「…颯太、愛花から聞いたの」

何のことかすぐにわかったんだろう。颯太の息遣いが一瞬変わった。
本当は言うのを迷っていたのだ。言った時の颯太の反応が怖かったから。
けれど、やっぱり心のうちに留めておくことはできない。

「あんなふうに別れたことの償いのためにお金の援助を申し出てくれたんだね」

颯太は何も答えず黙っている。
私はそれを肯定と捉え、鼓動に合わせて胸が痛むのを感じた。

「そんなのよかったんだよ？恋人同士の別れなんてよくあることだし、大金を出してもらうほどのことじゃ——」
「償い、か」

自嘲のようにふっと空気を揺らした颯太が、私の両腕を掴んで壁に縫い付けた。
バッグが落ち、背中に軽い衝撃が走る。
私に合わせて屈み、上目で見る颯太の表情には苦悶が滲んでいる。

「かいかぶるな。俺はそんなやさしい人間じゃない」

驚いてその瞳から目を逸らすことができず、部屋に沈黙が降りた。
少しして颯太がまつ毛を伏せる。

「ただの償いで済んだらよかったのに」

私に聞こえないと思ったんだろう。
けれど、小さく掠れたその声は、微かに私に耳に届いていた。
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