元彼専務の十年愛
月日は無情にも流れ、引き継ぎも無事に済んであっという間に10日が経った。
引っ越しはもう明日だ。
今夜も顔を合わせず、明日の朝は普通に『行ってらっしゃい』と見送って終わるのだろう。
取引をしているだけだったのだから、颯太にしてみれば別れを惜しむ理由もない。
けれど、私はそれを割り切れず、心に絡まったモヤモヤも解けずにいる。
帰宅して、全ての部屋を念入りに綺麗にしようと掃除を始めた。
私がいなくなったあとはまたハウスキーパーが入るだろうけれど、今の私が颯太への感謝としてできるのはこれくらいのことしかない。
書斎は元々サービスルームのため、私の部屋よりも狭く6畳ほどしかない。
私の身長よりも高い本棚に並んでいるのは、経営関係の専門書ばかりだ。
掃除が行き届いていなかった本棚の上もなんとか掃除しようと、重いダイニングチェアを書斎に運ぶ。
それに乗ってもまだてっぺんは見えないけれど、手を伸ばしてダストフェザーで埃をはらっていたら、何かが頭に落ちてきた。

「いたっ」

思わず声が出て額をおさえた。
落としてしまったものが壊れたらマズイと思い、慌てて椅子を降りる。
拾おうとした手が止まった。

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