元彼専務の十年愛
パステルピンクの小箱の蓋がずれ、中身が転がり出ている。
グレーのリングケースがふたつ。
それは『今の颯太の想い人』へのプレゼントではないとすぐにわかった。
小箱に刻まれているのは、私が高校時代に憧れていたローブランドの名前だ。
金銭的に余裕のある今の颯太が買うようなものじゃない。

どこか確信があった。この中身が誰へ宛てたものなのか。
良くないのはわかっているけれど、微かに震える手で蓋を開く。
恐る恐る手に取れば、内側に「Since 2012. 7.30」と刻印されている。
11年前——私と颯太が付き合い始めた日だ。

『17歳の誕生日、欲しいものある?』
『え?うーん…颯太がそばにいてくれればそれでいいよ』
『欲がないな。誕生日じゃなくたって、いつもそばにいるよ。一年の記念日でもあるから、何かちゃんとしたのをあげたいんだ』
『…じゃあ、リクエストしてもいい?』
『何?』
『あのね、すごく安いものでいいから——』

そうだ、あの時私は…

『すごく安いものでいいから、お揃いで身につけられるものがほしいな』
『いいよ。じゃあ楽しみにしてて』

もう一つのリングケースの中身は見なくてもわかる。
きっと大きさが違う同じデザインのリングが入っているのだ。

振ったのは颯太のほうなのに、どうしてこんなものを買ってあったの?
どうしていまだにこれを持っているの?
私にはわからないことが多すぎる。
やっぱり、こんな気持ちでここを出ていくことはできない。

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