元彼専務の十年愛
もう訪れることはないと思っていた本社に足を踏み入れ、ラウンジへと向かった。
ワークスペースで仕事をしている社員が何人かいる中、窓際のソファ席に縮こまって座り、そわそわしながら隆司先輩を待った。
約束の時間が近づくにつれて、心臓が早鐘を打っていく。
「有沢」
時間通り足早にやって来た隆司先輩に、私は立ち上がって頭を下げた。
「突然呼び出してすみません」
「いや、大丈夫だよ。かしこまらないで座って」
促されて再び椅子に座る。
考える時間はたっぷりあったはずなのに、今さら何をどんなふうに聞けばいいのかわからなくなり、視線を彷徨わせながらしばし黙った。
「颯太のことだよね?」
口火を切ったのは隆司先輩のほうだった。
穏やかにこちらを見ている彼は、私が呼び出した理由がわかっているんだろう。
肩の力が抜け、こくんと頷いた。
「私は彼と別れた後のことを何も知りません。もし隆司先輩が事情を知っているなら、教えてくれませんか?」
請うように先輩を見つめると、彼はすまなそうに眉尻を下げる。
「俺もアバウトにしかわからないんだ。だから俺のわかる範囲でしか話せないんだけど…まず、一個嘘を吐いてたことを謝っておくね」
「嘘?」
「俺、颯太と音信不通になったのはスマホが壊れたからだって言ったでしょ。でも本当は違うんだ。颯太はスマホを取り上げられたんだよ」
「取り上げられたって、誰に…」
「前社長。颯太の祖父に」
隆司先輩は、ゆっくりと間を置きながら話し始めた。
「現社長は、颯太の母親と引き離されたあともこっそり連絡を取っていて、颯太の存在も知っていた。だけど、高3の夏に颯太の母親が急死したことがきっかけで、前社長に颯太の存在がバレた」
「高3の夏って…もしかして連絡が取れなくなった夏休みの始め頃ですか?」
隆司先輩が頷く。
母親はとっくに亡くなっていると颯太は言っていたけれど、それがあの時だったなんて考えもしなかった。
ワークスペースで仕事をしている社員が何人かいる中、窓際のソファ席に縮こまって座り、そわそわしながら隆司先輩を待った。
約束の時間が近づくにつれて、心臓が早鐘を打っていく。
「有沢」
時間通り足早にやって来た隆司先輩に、私は立ち上がって頭を下げた。
「突然呼び出してすみません」
「いや、大丈夫だよ。かしこまらないで座って」
促されて再び椅子に座る。
考える時間はたっぷりあったはずなのに、今さら何をどんなふうに聞けばいいのかわからなくなり、視線を彷徨わせながらしばし黙った。
「颯太のことだよね?」
口火を切ったのは隆司先輩のほうだった。
穏やかにこちらを見ている彼は、私が呼び出した理由がわかっているんだろう。
肩の力が抜け、こくんと頷いた。
「私は彼と別れた後のことを何も知りません。もし隆司先輩が事情を知っているなら、教えてくれませんか?」
請うように先輩を見つめると、彼はすまなそうに眉尻を下げる。
「俺もアバウトにしかわからないんだ。だから俺のわかる範囲でしか話せないんだけど…まず、一個嘘を吐いてたことを謝っておくね」
「嘘?」
「俺、颯太と音信不通になったのはスマホが壊れたからだって言ったでしょ。でも本当は違うんだ。颯太はスマホを取り上げられたんだよ」
「取り上げられたって、誰に…」
「前社長。颯太の祖父に」
隆司先輩は、ゆっくりと間を置きながら話し始めた。
「現社長は、颯太の母親と引き離されたあともこっそり連絡を取っていて、颯太の存在も知っていた。だけど、高3の夏に颯太の母親が急死したことがきっかけで、前社長に颯太の存在がバレた」
「高3の夏って…もしかして連絡が取れなくなった夏休みの始め頃ですか?」
隆司先輩が頷く。
母親はとっくに亡くなっていると颯太は言っていたけれど、それがあの時だったなんて考えもしなかった。