元彼専務の十年愛

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私を包んでいた温もりが剥がれる感覚がした。
急に寒さと心細さに襲われたけれど、寝起きなのに冷静に働いた頭が、目を開くことを阻止した。
気配はすぐそばにあるのに、私たちの距離はもう遠い。
少ししてスプリングがゆっくりと沈み、温かい手が私の横髪を控えめに撫でた。

「幸せに」

囁かれた声は、ちゃんと私の耳に届いていた。
瞼の裏が熱くなったけれど、涙が出そうなのを必死に堪えて眠っているふりを続けた。

玄関のドアの音が閉まる音がして、途端に涙が次々と溢れてシーツを濡らし、嗚咽が漏れた。
もう二度と会えない。
私たちの道はもう交わらない。
けれど、あの日の真実を知ることができた。
やさしい颯太にまた会えた。
最後に幸せな夜をもらえた。
もうじゅうぶんだ。
颯太が最後に願ってくれたように、私も願わずにはいられない。
たとえ政略結婚であっても、どうかその相手が、颯太が心から愛せる女性でありますように。
颯太が本当の笑顔を見せられる相手でありますように。
幸せでありますようにと。


——"私はもう、彼に会うことはできない。けれど、最後に伝えたい言葉を綴ってもいいだろうか。その我儘を、神様は許してくれるだろうか。"