元彼専務の十年愛
——" I'll forever cherish the happiness you brought, and my heart belongs only to you, now and forever.
Thank you for showing me the everlasting love."

——"あなたがくれた幸せを、私は永遠に忘れることはないでしょう。
そしてこれから先もずっと、私の心はあなただけのものです。
私に永遠の愛を教えてくれてありがとう。"


『このシーンがね、すごく切ないの。何回読んでも大泣きしちゃう』
『でも結局ふたりは結ばれないんだよな。令息が手紙を見つけるかどうかもわからなかったし、実際見つからなくて読まれなかったんだろ?』
『読まれなくてもよかったんじゃないかな。私が彼女だったら、自己満足でも、溢れ出る想いを綴りたいだけだと思う。たとえ彼が他の誰かと結婚するとしても、見返りを求めずにずっと彼だけを愛し続けるためにーー』

文字が霞んで見えなくなっていき、目を擦った。
そこでやっと、自分が泣いていることに気づいた。

「いい歳した男が、なんで泣いてるんだ…」

自嘲ではない。驚きと戸惑い、そして自分への問いかけだった。
けれど、答えなど考えなくてもわかる。
ついさっき空っぽだと思ったばかりの心が、一気に切なさに支配されて、自分の許容量を超えたのだ。
そこには確かに、溢れて止まらない感情がある。
それを止めようとも思わない自分がいる。

紗知と別れたあと、俺にはひたすら勉強する道しかなかった。
全ては会社に入るため。会社をより良くするため。
会社に尽くしていくことが俺の使命なのだと自分に言い聞かせ、それを邪魔する感情を切り捨てた。
隆司の言う通りだ。
俺はいつの間にか、自分で自分を洗脳していたのだ。
けれど、もう誤魔化しきれない。
ほんの刹那の幸せで足りるわけがない。
俺の心はまだこんなにも紗知を求めている。
今、全ての仕事を投げ出してでも彼女に会いたいというこの迸る想いを、俺は素直に認めてもいいだろうか。
与えられた使命よりも大切なものがあると、主張してもいいだろうか。

文字を追いながら何度も考えた。
けれど、結局はこの涙が全てなのだとわかっていた。

< 136 / 154 >

この作品をシェア

pagetop