元彼専務の十年愛
翌日、夜会食の予定があるため、自分の車ではなく隆司が迎えに来てくれることになっていた。
マンションの脇に停められた車に乗り込む。 

「おはよう、颯太」
「おはよう。昨夜遅かったのに、また朝早くから悪いな」
「いや、俺は休憩室でずっと仮眠してたから全然平気」

隆司がギアをいれ、車を発進する。

「今日のスケジュールの確認。10時から第一会議室で経営会議。13時からオンラインで各地域の売上報告会。19時からは銀座の料亭で役員との会食」
「わかった」
「それと」

隆司が真面目な声のまま付け足す。

「今日、社長は16時以降なら在室のはずだよ」

思わず笑いが漏れた。

「今聞こうと思ってたのに、隆司にはお見通しか」
「さすがに俺でもわかるよ。声も表情も、いつもと違って事務的じゃない。清々しい感じがする」
「隆司を引っ張り込んでおいて、迷惑かけることになるかもしれない。ごめん」
「迷惑じゃない。俺は颯太の幸せを一番に願ってるよ」
「…ありがとな」

デスクには書類の束が積み上げられている。
会議の準備も必要だし、今日中に処理しなければならないタスクはたくさんある。
席につき、気合を入れて仕事に臨む。
会社のためではなく、自分のために。愛しい人に早く会いに行くために。
そんな気持ちが根底にあっても、集中して仕事をすることができる。
むしろ、感情があるからこそ漲る力があるのだと知る。

——やっぱり俺は、ロボットじゃない。

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