元彼専務の十年愛


颯太の元を去り、実家へ戻って4日が経った。
有給を使って勤務開始日の調整をし、明日からは実家から程近い店舗でフロアマネージャーの補佐をすることになっている。
都会と違って広い土地が安価で手に入るため、地方は大型の店舗が多い。
私の勤務先も、ALPHAが展開している系列ブランドをいくつか扱う大きな店で、およそ200台停められる駐車場もある。
なかなか忙しくなりそうだけれど、幸い私の家からはそう遠くないため、ペーパードライバーの私でも自転車で通うことができる。

店舗へ挨拶に行き、業務についての事前説明を受けたあと、帰りにスーパーで夕食の買い出しをして自宅へと戻った。

「ただいま。買い物してきたよ」

ショッピングバッグを胸の前まで持ち上げると、座椅子に座ってテレビを観ていた母がこちらを向いて微笑む。

「おかえり。ありがとう、助かるわ」

婚約破棄の件で母は意気消沈していたようだけれど、帰ってきた私の明るい顔を見て少しホッとしたようだ。
体調も薬のおかげですっかり回復し、顔色も良くなった。
鶏肉を買ってきたから今日はトマト煮にしようかな、なんて考えながら買ってきたものを冷蔵庫に入れ、窓の外に目をやる。
今日は晴れていて暖かいし、明日からの仕事が始まる前に少し行ってみようか。

「お母さん、ちょっと散歩してくるね」
「散歩?」
「うん、行ってきます」

実は散歩というほどの距離でもないため、スマホも持たずに家を出た。

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