元彼専務の十年愛
9. 自今
季節が一周し、また暑い季節がやってきた。
今年も何人かの友人から『誕生日おめでとう』とメッセージが届いていた。
今まで愛花から祝福メッセージが来たことはなかったけれど、今回は彼女もくれていた。
『もうすぐだね!』という言葉を添えて。

店舗の閉店作業を終え、店を出る。
空を見上げれば、今日は雲一つない晴天だ。
濃紺の空に白い月。そして小さな星が数個。
東京タワーの煌びやかな光より、やっぱりこのほうが落ち着く。
夜でも気温は高いけれど、風を遮るビル群がない分都心よりも涼しい。

自転車を漕ぎ、実家を通り過ぎて駅へと向かう。
ギリギリ終電に間に合い、ワンマン運転でほとんど乗客のいない電車に揺られて15分。
目的の駅へ辿り着き、そこからさらに歩いていく。
待ち合わせ場所を提案したのは颯太だったけれど、私も同じことを考えていたからすぐにそれに応じた。
緩やかな勾配の坂を歩いて上ると、しばらくして古びた校舎が見えてきた。
ここに来るのは卒業式以来だ。

校門の端に寄りかかり、目を閉じる。
告白してくれた時も、別れた時も、颯太はここで私を待っていた。
告白の時は心臓が飛び出そうなくらい緊張していたと、颯太があとで苦笑いをしながら教えてくれた。
けれど、別れた時に彼がどんな気持ちでここにいたのか、どれほどつらかったのか、私にはわかってあげることができない。
あの時の私に、颯太を助ける方法は何もなかった。
それでもやっぱり気づいてあげたかった。
抱きしめてあげたかった。
その後悔はずっと消えることはないだろう。
颯太もきっと、消えない傷をたくさん抱えている。
過去は変わらないけれど、未来はこれからいくらでも築いていくことができる。
10年の空白は埋まらなくても、これから歩幅を合わせ、幸せを積み重ねて少しずつ過去を癒していけたらいい。

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