元彼専務の十年愛
1. 取引
——2023年7月30日。
閉店の23時半を過ぎ、掃除や点検を終えてもうすぐ23時45分。
今日は平日ということもあり、遅くまで飲んでいる客がいなかったから早く終わったほうだ。
けれど、女子更衣室にはすでに誰の姿もない。
隣の男子更衣室のほうからも音はしないから、残っているのは私と『あともうひとり』だけだろう。
そもそも私はただのアルバイトであって、正社員のほうが先に帰るというのはおかしな話だと思うのだけど。
着替えを終えてバッグを手にし、短く息を吐いて気合を入れる。
店の裏口まではほんの数十メートルだ。急げばきっと大丈夫。
更衣室のドアを開け、そのまま足早に廊下を進みながら声を張る。
「お先に失礼しまーす」
「ああ、有沢さん、ちょっと待って」
待ち構えていたように後ろから店長の声に呼び止められ、立ち止まった。
…ああ、やっぱり今日も捕まるのか。
無視するわけにもいかず、仕方なく振り返って曖昧に笑みを浮かべてみせる。
歩いてくる店長は、30代前半の男性だ。
面接でこの居酒屋に来たときは爽やかな印象を受けたけれど、今は嫌悪感しかない。
やたらと身体を触ってきたり、なんだかんだと理由をつけて私を最後まで残らせ、こんなふうに声をかけてくるのだ。
閉店の23時半を過ぎ、掃除や点検を終えてもうすぐ23時45分。
今日は平日ということもあり、遅くまで飲んでいる客がいなかったから早く終わったほうだ。
けれど、女子更衣室にはすでに誰の姿もない。
隣の男子更衣室のほうからも音はしないから、残っているのは私と『あともうひとり』だけだろう。
そもそも私はただのアルバイトであって、正社員のほうが先に帰るというのはおかしな話だと思うのだけど。
着替えを終えてバッグを手にし、短く息を吐いて気合を入れる。
店の裏口まではほんの数十メートルだ。急げばきっと大丈夫。
更衣室のドアを開け、そのまま足早に廊下を進みながら声を張る。
「お先に失礼しまーす」
「ああ、有沢さん、ちょっと待って」
待ち構えていたように後ろから店長の声に呼び止められ、立ち止まった。
…ああ、やっぱり今日も捕まるのか。
無視するわけにもいかず、仕方なく振り返って曖昧に笑みを浮かべてみせる。
歩いてくる店長は、30代前半の男性だ。
面接でこの居酒屋に来たときは爽やかな印象を受けたけれど、今は嫌悪感しかない。
やたらと身体を触ってきたり、なんだかんだと理由をつけて私を最後まで残らせ、こんなふうに声をかけてくるのだ。