元彼専務の十年愛
着替えて寝室から出てきた颯太が、ダイニングテーブルに並んだ料理を見て少し表情を和らげた。
「ごめんなさい。味の保証はできないけど」
「いや、おいしそうだ」
彼はダイニングのチェアに腰かけて、丁寧に手を合わせて味噌汁に箸をつける。
私も彼の反応を見つつ、自分の食事に手を付け始める。
すると、颯太が箸を止めた。
「もう20時だぞ。俺の帰りは待たなくていいから、気にしないで食べてくれ」
そうか。別にこうやって一緒に食事をする必要もないのか。
むしろ私が一緒に食べていたら気が散って邪魔かもしれない。
「じゃあ、次からはそうします」
「掃除は週3回ハウスキーパーに入ってもらってる。紗知も働いてるんだから、必要なら食事もハウスキーパーに頼むぞ」
「いえ、私は残業もそんなに多くはないですし、大丈——」
「紗知」
厳しい声に遮られ、ちらりと颯太を上目で見る。
咎めるような表情で私を見ている彼の言いたいことはわかっていた。
「取引をしてるんだ。こちらの言うことに従ってくれ。敬語は禁止」
「…うん」
颯太が言うのならそうするしかない。
けれど、私と全く立場の違う彼に気軽な話し方をするのは抵抗がある。
そして、反抗心のようなものもある。
金銭援助は確かに助かったけれど、彼のやっていることはやっぱり無神経だ。
婚約者のふりなんて、あんな振り方をした元恋人に頼むことじゃない。
「ごめんなさい。味の保証はできないけど」
「いや、おいしそうだ」
彼はダイニングのチェアに腰かけて、丁寧に手を合わせて味噌汁に箸をつける。
私も彼の反応を見つつ、自分の食事に手を付け始める。
すると、颯太が箸を止めた。
「もう20時だぞ。俺の帰りは待たなくていいから、気にしないで食べてくれ」
そうか。別にこうやって一緒に食事をする必要もないのか。
むしろ私が一緒に食べていたら気が散って邪魔かもしれない。
「じゃあ、次からはそうします」
「掃除は週3回ハウスキーパーに入ってもらってる。紗知も働いてるんだから、必要なら食事もハウスキーパーに頼むぞ」
「いえ、私は残業もそんなに多くはないですし、大丈——」
「紗知」
厳しい声に遮られ、ちらりと颯太を上目で見る。
咎めるような表情で私を見ている彼の言いたいことはわかっていた。
「取引をしてるんだ。こちらの言うことに従ってくれ。敬語は禁止」
「…うん」
颯太が言うのならそうするしかない。
けれど、私と全く立場の違う彼に気軽な話し方をするのは抵抗がある。
そして、反抗心のようなものもある。
金銭援助は確かに助かったけれど、彼のやっていることはやっぱり無神経だ。
婚約者のふりなんて、あんな振り方をした元恋人に頼むことじゃない。