元彼専務の十年愛
3. 変化
同居生活を始めて1か月半が経った。
夜は帰りが遅くて顔を合わせない日もあるし、朝コーヒーを煎れるくらいしか能のない日々だけれど、少しずつ生活に馴染んできた。
今日は一週間ほどアメリカへ出張していた颯太が早めに帰ってこられると連絡をくれていたため、夕食の準備をして待っていた。

「おかえりなさい」

玄関まで出迎えると、大きなキャリーケースを転がしながら入って来た颯太が「ただいま」と穏やかに答える。
変わらない颯太にホッとした。

「土産にチョコレートを買ってきたんだ。あとで食べよう」
「ありがとう」

受け取った袋には有名な高級チョコレート店の名前が入っている。
ネット通販では売っておらず、現地に行かないと買えないものだから、いつかアメリカに行くことがあったら絶対に食べてみたいと思っていたのだ。
袋の中身をじっと見つめていると、ネクタイを緩めていた颯太がふっと口角を上げる。

「紗知はこういうの好きだろうと思ったが、ビンゴか」
「…うん」

見透かされて気恥ずかしくなりながら、うなづいた。

「チョコなんてどれも同じ味だろ」
「そんなことないよ。有名なお店のだし、食べるの楽しみ」
「夕食の前に食べてもいいぞ」
「ううん、デザートにする。今食べたら止まらなくなりそう」
「そうか」

颯太はくつくつと静かに笑って肩を揺らしながらリビングへと入っていく。




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