元彼専務の十年愛
「…颯太はすごいね。こういう場所に馴染んでて」
「仕事だからな。慣れざるをえないよ」
私が颯太の立場なら、きっといくら場数を踏んでも慣れることはない。
うまく会話もできず、ただ疲れて終わるんだろう。
『ただの社員?颯太さんに全然釣り合わないじゃない』
このみさんの言う通りだ。
颯太は私とは違う。
ただの先輩後輩だった頃よりもっとずっと遠い…全く別の世界の人。
胸が詰まって夜景が霞んで見えなくなっていき、雫が頬をつたった。
「遠い人になっちゃったね…」
小さく零れた独り言に、颯太がこちらを向く気配がして慌てて涙を拭った。
「ごめんなさい。酔ってるみたいで、私変なこと——」
不意に大きな手が頬を包み、顔を引き上げて唇が重なった。
シトラスがふわりと香る。
ゆっくりと顔を離した颯太は、切なげに眉を寄せている。
「これでも『遠い人』?」
ブラウンの瞳に夜景の光が微かに映る。
それに見惚れていたら、再びゆっくりと唇が重なった。
閉じた瞼の裏で、船のライトがチカチカと揺れる。
胸が痛むのも、涙が出るのも、もっとこうしていたいと思うのも、全部お酒のせいだったらいいのに。
私たちはただ取引をしている関係でしかないのに。
再会してから私の心臓は騒いでばかりだ。
私はそれを、とっくに終わった過去だと言い張れるんだろうか。
——″結ばれないとわかっている。雲上人の彼と私は住む世界が全く違うのだ。けれど、彼が彼である限り、私はこの想いから逃れることはできないのだろう。"
「仕事だからな。慣れざるをえないよ」
私が颯太の立場なら、きっといくら場数を踏んでも慣れることはない。
うまく会話もできず、ただ疲れて終わるんだろう。
『ただの社員?颯太さんに全然釣り合わないじゃない』
このみさんの言う通りだ。
颯太は私とは違う。
ただの先輩後輩だった頃よりもっとずっと遠い…全く別の世界の人。
胸が詰まって夜景が霞んで見えなくなっていき、雫が頬をつたった。
「遠い人になっちゃったね…」
小さく零れた独り言に、颯太がこちらを向く気配がして慌てて涙を拭った。
「ごめんなさい。酔ってるみたいで、私変なこと——」
不意に大きな手が頬を包み、顔を引き上げて唇が重なった。
シトラスがふわりと香る。
ゆっくりと顔を離した颯太は、切なげに眉を寄せている。
「これでも『遠い人』?」
ブラウンの瞳に夜景の光が微かに映る。
それに見惚れていたら、再びゆっくりと唇が重なった。
閉じた瞼の裏で、船のライトがチカチカと揺れる。
胸が痛むのも、涙が出るのも、もっとこうしていたいと思うのも、全部お酒のせいだったらいいのに。
私たちはただ取引をしている関係でしかないのに。
再会してから私の心臓は騒いでばかりだ。
私はそれを、とっくに終わった過去だと言い張れるんだろうか。
——″結ばれないとわかっている。雲上人の彼と私は住む世界が全く違うのだ。けれど、彼が彼である限り、私はこの想いから逃れることはできないのだろう。"