元彼専務の十年愛
「私もパーティーの時、彼の笑顔は人工的だと思いました。でも、隆司先輩と話している時は自然に笑ってるように見えます」
「まあ、秘書をするようになって、車の送迎の時なんかは少し笑顔が出るようになったと思う。でもやっぱり昔とは違う。ロスにいた頃はロボットなんて言われてたらしい」
「ロボット?」
「今でも仕事中のあいつはロボットみたいだ。本人も、仕事に感情は要らない、俺はロボットでいいって言ってた」

『喜怒哀楽がないっていうか、感情が全然見えなくて冷たい感じらしいわよ』

河田さんが言っていたことは、表現を変えれば『ロボット』に近いのかもしれない。
そして隆司先輩にもそう見えているのだと…颯太自身もそう考えているのだと思うとショックを受ける。

「有沢の前で、颯太は笑う?」

控え目に訊ねられ、返答に窮した。
やわらかい颯太の顔が浮かんだけれど、それはパーティーより前の話であって今は違う。

「…最近は顔を合わせることも少ないので」

問いに対するきちんとした答えにはなっていないけれど、息苦しくて言葉を絞りだすので精一杯だ。
隆司先輩は、そっか、とトーンを落とす。

「あいつなりに必死に線引きしてるんだろうな」
「え?」
「いや、なんでもない」

私にはよく聞こえなかったけれど、先輩はそれ以上何も言わず再びパンを頬張っていた。

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