元彼専務の十年愛
帰宅すると19時近かった。
いつも通りカーテンを閉め、自室で着替えようとしていたら、バッグの中のスマホが音を鳴らした。
メッセージアプリではなく電話の着信音だ。
取り出して見ると、画面には『隆司先輩』の文字。
嫌な予感がして、すぐに画面をスワイプする。

「もしもし?」
『もしもし、有沢。颯太が高熱出してるんだ』
「高熱?」

早口の声から切迫した様子が伝わってきて、さっと血の気が引いていく。

『意識も朦朧としてるし、今から病院に連れていくよ。今日はそのまま病院に泊まって——』
「私も行きます。どこの病院ですか?」

思わず口調が強くなり、それに驚いたのか電話越しに少し間があった。
隆司先輩が宥めるようにさっきよりもゆったりとした声を出す。

「落ち着いて、有沢。病院の場所は——」
「わかりました」

すぐにタクシーを手配し、隆司先輩が教えてくれた病院へと向かった。
タクシーでは20分ほどの距離だ。
決して遠くはないのに、何時間乗っているんだろうと思うくらいに長く感じてもどかしくなった。

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