□TRIFLE□編集者は恋をする□
 

葉月さんにも三浦くんにも簡単に考えてることを見抜かれてしまうくらい、私は動揺してるというのに、片桐は相変わらず平然と仕事をしていた。

少し離れたデスクにいる片桐を睨みながら頬杖をつく。

伸びた髪を無造作に後ろでひとつにくくった髪形。
整った顔に男らしい顎のライン。
逞しい広い肩幅。
節が目立つ、ごつくて長い指。
そのひとつひとつを観察していると、あの夜の事が甦って来て勝手に頬が熱くなった。

あの唇が私のあんなところにキスをして、あの指が体中をなぞって……。
なんて、頭の中にベッドの中での出来事が勝手に再生されて止まらなくなる。

落ち着け自分、と頬を叩いて立ち上がった。

今日はもう帰ろう。
吉乃のおばちゃんに美味しい物でも食べさせてもらって平常心を取り戻そう。
そう決めて、さっさと周りを片づけはじめた。

「あれ、平井さんもう帰るんですか?」

「うん、お腹すいたから帰る。お疲れ様でーす」

話しかけてくる三浦くんにそう言いながら、ジャケットを持って編集部を出た。

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