□TRIFLE□編集者は恋をする□
 


「何?」

「さっき、彼女が来てたよ」

私の言葉に、片桐が意味が分からないというように眉をひそめる。

「時計、忘れていったから届けに来たって」

彼女から預かった腕時計をポケットから出し、片桐に手渡す。

「あぁ、美咲か。あいつ編集部に来たのか」

片桐は時計を私の手から受け取り、いつものように左手首にはめた。

「うん。すごく綺麗な人だね」

「悪いな。なんか面倒な奴だったろ」

「そんな事、全然……」

片桐はこちらに手を伸ばし、一瞬だけ私の髪に触れた。
微かに感じた、片桐の長い指の感触。
けれどすぐにその手は私から離れ、片桐は背を向けてフロアへと向かって歩き出す。

その後ろ姿を見ながら、私は泣きそうになった。

せめて、彼女がここに来たことに少しでも動揺してくれればいいのに。
私の前でうろたえて取り繕って言い訳してくれればいいのに。
嘘でもいいから、彼女はいるけど私の方が好きだって言ってくれればいいのに。
そんな事を思ってしまった自分に、ぞっとする。

私はいつの間に、こんなに恋愛に溺れてしまっていたんだろう。
少し前まで恋愛なんてめんどくさいって、仕事を思いっきりできたらそれでいいって思っていたのに。

そんな私の事を、三浦くんは呆れたような表情で見ていた。


□TRIFLE□06□END□

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