□TRIFLE□編集者は恋をする□
 



「ごめんなさいね、お仕事忙しいのに無理言って違う出版社のお手伝いしてもらうなんて」

TRIFLEの編集部の隅にある応接セットで名刺を取り出しながらそう言ったのは、新田さんという40代前半のショートカットの女性。

「いえ。以前から成図社さんのガイドブックをとても素敵だと思っていたので、お手伝いさせてもらえて光栄です」

私がそう言うと、目の前にいる新田さんはほっとしたように笑った。

「こちらこそ。TRIFLEは毎月愛読してるから、一緒にお仕事できて嬉しいわ」

「読んでいただいてるんですか?新田さん東京にお住まいですよね?」

「今は東京に住んでるんだけど、地元は札幌なのよ。定期購読させてもらってます」

「わぁ!嬉しいです。ありがとうございます」

わざわざ東京まで取り寄せて毎月読んでもらってるなんて、嬉しくて声がはずむ。

「だから北海道のガイドを作るって決まった時、すかさず藤岡に電話して編集者紹介してくれって無理言っちゃったの」

新田さんは小さく笑いながら、いたずらっ子のように肩をすくめてみせる。

「編集長とは以前からお知り合いだったんですか?」

「前に札幌の出版社で一緒に働いていたんだけど、藤岡はその辺なにも説明してないのね」

「うちの編集長は口下手ですから」

もっと詳しく説明してくれたっていいのに。
いつもテキトーな説明ですませるんだから。
そんな不満を含めながらそう言うと、新田さんは嬉しそうに声をあげて笑った。

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