□TRIFLE□編集者は恋をする□
 

ずるいよ。
本当にずるいよ。

目をそらして誤魔化すように言ってくれたら、なんてひどい男だって軽蔑してやるのに。
そうやってまっすぐに私の目を見ながら謝られたら、もう、どうしていいのかわからないじゃない。

一言の謝罪で行方を失った、片桐への恋愛感情。
ぷつりと切れた細い蜘蛛糸がふわふわと風に揺れるように、まるで実感がわかなかった。

「そっか……」

物わかりのいい大人のフリをして、そうつぶやいて片桐に背を向ける。

「平井、美咲は……」

そう言いかけた片桐の口に手を伸ばして、彼の言葉を遮った。

「もういいよ」

どうせこの感情に行き場がないのなら、これ以上何も聞きたくなかった。
片桐の口から、美咲さんの名前を聞くのも苦しかった。
口をきつく結んだ私に、何を言っても無駄だろうと悟ったんだろう。

「送ってく」

片桐は静かに言って車を発進させる。

私は窓の向こうを流れる夜の住宅街の景色と、助手席の窓に反射する暗い車内で燻るように光る片桐の長い指に挟まれた煙草の火種を、ただ黙って見ていた。


□TRIFLE□11□END□
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